通信ネットワーク訪問

ネットワーク杉並ここと編

取材:うめ吉
協力:李貞洙


 新宿青酸ガス事件から一週間、Xデーの3日前の5月13日、なんでこんな日にわざわざ東京方面に行かんとあかんねん、とぼやいてみても仕方がない。そこに楽しいことが待っていることを信じて行くしかない。
のぞみは速い。9時30分には東京駅にいる。顔馴染になったリフト・タクシーのにいちゃんと落ち合って、予定通り10時30分に杉並区杉並障害者福祉会館に到着。

 そこでは、3月のchallenged分科会に来ていただいた旅人木(近山:写真店経営)さんをはじめ、キタロー(村:3月まで杉並障害者福祉会館職員)さん、桜いち(小野:電器店経営)さん、Dreamin'(佐藤:通信系勤務)さんたちがテレビゲーム器用の入力装置を改造した入力装置の試作品をいじくっていた。


はじまりは福祉機器展

 杉並こことの誕生のきっかけになったのは1991年5月に杉並障害者福祉会館で開催された福祉機器展にさかのぼる。
キタローさんら職員が企画したこの展示の中心はコミュニケーション機器で、トーキング・エイド、点訳ソフト、読み上げシステムや各種入力システム、そのひとつとして大手商用ネットF社の協力を得てパソコン通信のデモンストレーションを行った。
そのときだけの特別なフォーラムを設けての書き込みをはじめ、チャットやメールでも一度に30人程度が参加してくるという「勢い」を関係者は肌で感じた。とくにチャットでは、さまざまな障害を持っている人がリアルタイムで話ができることを全国の人が感じ、東京近辺の人はデモ会場に集まってくるという盛り上がりを見せた。
 ここまで取材が進んだところでトラ(小林:初心者講習講師)さん登場。

それなら自分たちで

 そのときデモ会場に集まってきたメンバーは、今取材をしている男性5人と他に数人ほど。いろいろ話をするうちに自分たちでホスト局を開設しようということになったという。
しかし、いざ話が具体的になると、器材、設置場所、資金、運営など問題も具体化してきた。

そんな中、Dreamin'さんが自分のパソコンとモデム、電話回線を開放し試験運用を始め、その間に諸問題を解決していこうということになる。
設置場所は「行政財産の目的外使用」(ホスト機も電話回線も個人所有:ジュースの自動販売機のようなもの)許可を得て杉並障害者福祉会館になった。
電話料金は個人負担、電気料金は別メーターで負担、設置料は交渉して無料にしてもらったがシビアな運営状況。1992年4月に設置許可がおりて正式運用となる。
 ここまで取材が進んだところでさくら(肥後:こことのメンバーでありながらユーザではない料理好きなお姉さん)さん登場。

目玉はオフライン・サインアップ

 杉並こことでは、IDコレクターのような、IDは取ってもほとんどアクセスしないような人がいないように彼等曰く「オフライン・サインアップ」という形で会員を集めている。
「パソコン通信というのは初心者ほど大変なんですね。初心者がぶつかる問題としてまず通信ソフトの設定、モデムの設定がある。IDだとかパスワードを設定してやっと入れても未読の山なんですね。
だから初心者講習会で慣れてもらって、通信できるようになってからIDをとってもらう」と旅人木さんはいう。

 杉並こことは年会費2,000円(会員は約100人)で運営している。使いみちは電気代、電話代、パンフレット作成費(年90部)、書込の製本(2冊のみ)、それにオフライン・サインアップを採用している以上郵送費がかさむ。

初心者講習会 → 入力装置開発

 杉並こことでは、毎月初心者講習会をやっている。
この講習会にはとくに申込をしなくても参加できる。「その日に気が向いてポッと来ていいようにするには、どういう人が来るかわかんないから何かいろいろ入力機器を考えなきゃいけないようになった」と旅人木さんはいう。
前号のchallenged分科会で紹介した入力機器はこのような発想から生まれた。

最初は個人にあわせたものをゼロから考えて作っていくが、本人の要望をきいて改良を加えたり本人が使い慣れてくるにしたがって、市販のものに少し手を加えるだけで要望が実現できるようになる。
そうなると、それは似た障害を持つ人にも使いやすくなる。
前号で紹介したものも含めて会館の生活訓練室に置いてある各種入力装置は、やはり市販のものに少し手を加えただけのものが多かった。講習は在宅障害者のことも考慮して出張サービスもしている。

初心者講習会 → ホスト局開設指導

 杉並こことでは、一般向けの講習会の他に養護学校のパソコンクラブや療護施設の入所者を丸ごと対象にした講習会もやっている。
これは、パソコン通信の技術指導だけでなく、彼等が自分たちでパソコン通信ホスト局を開設できるよう指導する目的も含んでいる。
開設希望者には、しばらくの間杉並こことでCUG(Closed User Group)をつくり、慣れてきたら徐々に自分たちのホスト局へ移行していってもらう。
「ネットをたちあげることだとか、運営することだとかはそんな難しいことではないことがわかってきたから、状況が整えばすぐできるよ、ということも伝えていきたいなと思ってるんです」とキタローさんはいう。

草の根ネットの役割

 杉並こことでは、情報提供の部分として杉並とその福祉情報というのをメインにしている。
戦争体験記や車いすの視点から見た杉並の街の変遷などというような地元に密着したものや区からの情報が満載されている。
「大きなネットには大きなネットでまた意義があると思うんですよね。中央の官庁から必要なデータをいつ引き出してもかまわないというもののように。
小さな僕らみたいなネットは密着した情報が持ち味だから、他の地域にまたそういうネットがあれば、そこのネットに聞けばその地元のことはわかる、となればいいなと思います」とキタローさんはいう。

おわりに

 今回の取材の総文字数は実に4万字にも及ぶ。
それだけ多くのことを杉並こことから、そのメンバーから教わったことになる。それより何より久々の楽しい取材だった。彼等の楽しさとパワーを旅人木さんは次の言葉で表している。

 「初心者講習会で一生懸命オフを毎月やってるのも、お互いに顔を見たいからです。そのほうがコミュニケーションがもっと楽しくなりますよ。」

追記:こことの名前の秘密はキーボードにあり